水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」の抑草効果を実証

-水稲有機栽培の省力的雑草防除技術として期待-

図1 水田で稼働中のアイガモロボ

農研機構、有機米デザイン株式会社、東京農工大学、井関農機株式会社は、水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」(以下、アイガモロボ)の抑草効果を確認する実証試験を全国36か所で行いました。
その結果、アイガモロボの使用により、雑草の発生量が水稲の収量に影響を及ぼさない程度に抑えられることを確認しました。また、アイガモロボの導入により、導入しない場合と比べて、収量は平均10%増加し、機械除草の回数が58%減少したことから、水稲有機栽培における省力的な雑草防除技術としての活用が期待されます。

■実証実験の概要

化学合成農薬を使用しない水稲有機栽培では雑草防除に係る作業時間と作業負荷が共に非常に大きく、雑草害が主要な減収要因になることから、省力的かつ安定的な雑草防除技術の開発が求められています。そこで、農研機構、有機米デザイン株式会社(東京農工大学発ベンチャー)、東京農工大学、井関農機株式会社は、太陽光を動力源としてGPSで水田内を自動走行し、雑草の出芽や生育を抑制すると考えられている水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」(図1)の雑草抑制効果および水稲収量への影響を2か年計36か所(秋田~鹿児島)の水稲有機栽培生産者ほ場で検証しました。

アイガモロボはアイガモを用いたアイガモ農法(除草)に着想を得て開発され、効果が不安定なアイガモの代替として活用が期待されています。アイガモロボを導入したほ場の幼穂形成期1)における平均の推定雑草乾物重2)は16.6g/m2で、水稲の収量には影響しない程度でした。また、アイガモロボの使用により、生産者が従来から取り組む有機栽培(主に複数回の機械除草)と比較して、機械除草回数は平均で58%減少し、水稲平均収量(424kg/10a)は10%増加しました。以上より、アイガモロボは除草労力を削減しつつ水稲有機栽培の収量を確保する新たな雑草対策ツールとして有効であると考えられました。一方で、実証試験全体の3割程度でアイガモロボが正常に稼働しない事例も確認されました。アイガモロボを水田で安定的に稼働させるためにはほ場水位を一定以上に保つ必要があり、ほ場の均平化や用水の安定供給が重要な導入条件として挙げられます。今後は、アイガモロボの雑草防除メカニズムや水稲収量の増加に寄与した要因を解明し、ほ場の立地やサイズ等に応じた効果的なアイガモロボの運用法や適用条件等を明らかにしていきます。

<関連情報> 予算:資金提供型共同研究(井関農機株式会社、有機米デザイン株式会社)

■社会的背景と研究の経緯

国内では環境保全や農産物の安心・安全に対する関心が高まり、有機農産物に対する需要は着実に増加すると考えられます。2021年には農林水産省が「みどりの食料システム戦略」を策定し、有機農業取組面積の拡大を目指していますが、有機栽培の普及は十分に進んでいないのが実態です。国内の水稲作付面積は全耕地面積の4割弱を占めており、同戦略が目標とする有機農業取組面積を達成するには水稲有機栽培の面積拡大が喫緊の課題ですが、慣行栽培と比較して収量が低く、不安定な傾向にあります。加えて、水稲有機栽培では除草作業に要する労力が非常に大きく、栽培面積の拡大を阻害する大きな要因になっています。従って、国内の担い手の高齢化および減少が加速化する現状では、水稲有機栽培における除草作業の省力化と安定した雑草防除を可能にする除草技術の開発が求められています。

 有機米デザイン株式会社が開発した水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」は2023年に井関農機株式会社より販売が開始されましたが、今後の普及を加速化するためには、全国各地の様々な気象・ほ場条件下で実証試験の事例を積み重ね、雑草抑制効果や水稲の収量に対する影響、走行時の問題点やアイガモロボの導入要件(ほ場面積、対象地域、対象雑草種等)を整理する必要があります。そこで、今回は2021年(18都府県、アイガモロボ75台使用)と2022年(34都府県、アイガモロボ210台使用)に実施した実証試験のうち、一部で取得した高精度なデータを整理・解析し、アイガモロボの雑草抑制効果や水稲収量への影響を検証しました。

■研究の内容・意義

1.アイガモロボの概要

 アイガモロボはアイガモを用いたアイガモ農法(除草)に着想を得て開発され、効果が不安定なアイガモの代替として活用が期待されています。アイガモロボの大きさは90cm×130cm×40cm、質量は約16kgで、搭載した全地球測位システム(GPS)に基づき自動走行が可能です。動力源はソーラーパネルによるモーター駆動で、晴天時の作業であればバッテリーの交換は必要ありません(図2)。田面に浮かべるフロート式のため水稲の上も走行可能であり、水稲の条間(畝の間)や株間(稲株と稲株との間)を区別しません。本機を使用できる期間は、水稲移植直後から3週間程度で、10a当たり30分程度の能率でほ場全面をくまなく走行します。田面を攪拌するスクリューが地表面の土を巻き上げ濁らせることで雑草の光合成を阻害することに加え、地表面に堆積した土が地表面の雑草種子を埋設することで雑草の発生および生育を抑制すると考えられています。

2. 雑草抑制効果、除草作業の省力化、水稲収量への影響

 アイガモロボ実証ほ場における幼穂形成期の推定雑草乾物重(全雑草種の合計値)は16.6±14.0 g/m2(n=36,平均±標準偏差)であり、先行研究の結果から、その後の水稲収量には影響しない程度であると考えられました。また、アイガモロボ導入前の平均機械除草回数が2.4回であったのに対して、アイガモロボ導入後は1.0回になり、機械除草の回数は58%削減されました。なお、アイガモロボ稼働後の機械除草回数が0回になった実証ほ場も12ほ場(全体の33%)ありました。水稲の収量(精玄米重)は、対照(主に試験前年)が平均386kg/10aであったのに対して試験年は424kg/10aであり、気象要因による年次変動を除いた前年比収量(各地域の作況指数によって補正)はアイガモロボの導入により平均で10%増加しました。以上より、アイガモロボは除草労力を削減しつつ水稲の収量を確保する新たな雑草対策ツールとして有効であると考えられました。

3. アイガモロボの異常稼働要因

 2か年計36ほ場のうち25ほ場(69%)ではアイガモロボが問題なく稼働しましたが、残りの11ほ場(31%)では走行が困難な状況が確認されました(表1)。最も多かった理由は、「ほ場の不均平(まんべんなく平らになっていない状態)」および「水利慣行(取水・排水などの地域による取り決め)による水量不足」(それぞれ3ほ場)であり、いずれもアイガモロボが稼働できるだけのほ場水位(5㎝程度)を維持できなかったことが原因です。ほ場の均平程度が低い場合、ほ場内の地表面の高い箇所で水位が低くなり、その周辺でアイガモロボが座礁する、あるいは地表面の低い箇所では苗が水没して生育が不良になるリスクが考えられます。従って、アイガモロボを導入する上では、作付け前にレベラーや代かき作業でほ場の均平程度をなるべく高めることが重要になります。



■今後の予定・期待

 今後は、さらに詳細なアイガモロボの雑草抑制メカニズムや水稲収量の増加に寄与した要因の解明を進め、より効果的なアイガモロボの運用法や適用範囲(適用可能な雑草種、土質、栽培方法等)を明らかにし、機械性能の向上や抑草効果の改善に貢献していきます。また、農家の経営規模や経営環境に応じたアイガモロボの活用方法を提案し、生産現場での普及を後押しします。アイガモロボが水田で安定的に稼働し高い抑草効果を発揮することで、水稲有機栽培における除草作業の軽労化は大きく進展することから、水稲有機栽培面積の拡大に貢献できます。

■用語の解説

1) 幼穂形成期

イネの分げつ(新たな茎の枝分かれのこと)が徐々に落ち着くと、茎の中で幼穂が形成され生育を開始します。幼穂形成期は幼穂の長さが1~2mm、出穂前22~24日頃(移植してから40日後頃)に相当します。この時期の残草量は水田における雑草防除の成否を判断する基準の1つであると考えられています。

2) 推定雑草乾物重

雑草の草種ごとに草高および被度(地表面を植物が占める割合)を調査し、算出した重量。それらを乗じて乗算優占度を算出した上で、簡易推定式(y=8.50x-4.22, r=0.94)のxへ乗算優占度を代入して算出しました。

■発表論文

中村哲也, 浅見秀則, 磐佐まりな, 藤井義晴, 大川泰一郎(2024). 水田用自動抑草ロボットの活用による雑草抑制効果と水稲収量への影響.日本作物学会紀事, 93(1) 31-37.

■担当者の声

農研機構 西日本農業研究センター 中山間営農研究領域 研究員 浅見 秀則

水稲有機栽培では雑草防除が生産者にとって大きな負担になっていますので、アイガモロボのような革新的な技術が生み出されたこと、研究者としてその一端に携われたことを嬉しく思います。市販化に至るまでの様々な苦労が報われるよう、引き続き研究分野からサポートしていきます。


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